Category:incu-be*06号掲載記事|Update:2009.05.25

アフリカの乾燥地帯、日差しが厳しい中で育つ野生種スイカ。この特殊な環境に存在する植物の研究に別々の視点から魅力を感じ、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)での研究に行きついた2人の研究者がいる。分化・形態形成学講座助教の宗景ゆりさんと博士後期課程2年の三田智子さんだ。
宗景さんが研究に興味をもったのは、中学生の頃にまでさかのぼる。夏休みの自由研究だったが、親が熱心についてくれたお陰もあり、良い研究ができた。当時はまだ具体的な研究分野は頭になかったが、やがて大学に進学し、現在の研究テーマにつながる光合成に興味を抱く。「色素が光エネルギーを吸収する、そこで化学エネルギーが生まれるという過程がすごく面白いと思ったんですよ」。NAISTに在籍した大学院時代には、興味を武器にシロイヌナズナの変異株を使って、光合成を制御する分子メカニズムの実験に明け暮れた。大学院の研究成果は光合成の新たな電子伝達系の解明につながった。
大学院を卒業後、フランス留学を経験した。留学先として選んだのは、共同研究先であり、物理学的手法による光合成解析技術で定評のある研究所だ。フランスではさらに深く光合成への興味を掘り下げると同時に新しい考え方を学んだという。「フランスでは枠の外で発想することを学びました」。固定観念にとらわれ、物事を決まった範囲の中で考えがちな日本人と比べ、フランス人の自由な発想は新鮮だった。留学以来、研究自体も違う視点から見ることができるようになった。充実した2年間の留学を経て、助教としてNAISTに赴任した。
三田智子さんは、宗景さんの指導の下で研究に励む大学院生だ。
大学に進学する前から一貫して植物の乾燥耐性に興味をもっている。きっかけはふと見かけた新聞記事だ。砂漠でも生きられる植物について書いてあり、過酷な環境でも生きられることが単純にすごいと感じた。その興味を抱えたまま大学4年でコケを使って乾燥耐性に関わる研究を体験した。初めての研究体験は魅力的だった。「実験を始めたら、すごく面白かったんです。それで、大学4年の1年間だけではやめたくないなって思って大学院進学を決めました」。充実した研究環境に加えて、単なる知識のみではなく、人物重視の「面接試験」を実施する学風に魅力を感じ、NAISTを研究の場に選んだ。
植物は生育において過剰な光を浴びた時、水分の蒸発を防ぐために気孔を閉じ、植物体内への二酸化炭素の流入を遮断する。この際、光合成に使われない光エネルギーの働きは有害な活性酸素の産生につながり、植物に光傷害を引き起こしてしまう。ところが、野生種スイカはこの光傷害を受けない。なぜだろうか?強さの秘密は野生種スイカの特別な光合成の仕組みに隠されているのかもしれない。宗景さんにとって、光合成の視点から野生種スイカは興味深い植物なのだ。また、乾燥耐性植物である野生種スイカのたくましさは三田さんにとっても非常に魅力的な研究対象である。
2人の興味をつなぐ野生種スイカだが、実験面では独特の難しさがある。DNAやタンパク質などの抽出が難しく、遺伝子導入の効率も悪い。さらに植物での実験ではメジャーなシロイヌナズナに比べるとデータベース等の蓄積された知見が圧倒的に乏しいのだ。困難にも負けず三田さんは朝から夜遅くまで研究を続ける。自分がずっと興味をもってきた乾燥耐性植物の不思議さを解明できるかもしれないのだ。多少の障害があってもそれは苦にならない。興味を武器に未知の解明に取り組む姿勢は宗景さんと重なる。現在、2人は野生種スイカの強光ストレス耐性に着目し、その光合成経路に潜む、特殊な分子メカニズムを追求している。
大学院を卒業後、宗景さんは留学の他にも、結婚、出産と人生の転機を迎えており、現在は二人の子どもの育児と研究をこなす日々である。どうやって両立させているのだろうか?「頼めることは頼んで、生活の方も研究の方も何とか回すって感じです。」穏やかな雰囲気の中に女性研究者としての、また母親としての芯の強さを感じた。
そんな彼女は三田さんにとって研究指導者以上の大きな存在となっている。研究は続けたい、でも1人の女性として結婚、出産も経験したい。その両立において、研究者を目指す女性ならではの不安を感じていたからだ。「結婚したり、出産で休んだり、そういうことしたら許されないんじゃないかと思っていました」。実際に指導教官の2度の出産を間近で見て、考えが変わった。「先生には感謝ですね」。将来への不安を抱くことがあっても、何とかなる姿を目の当たりにして、前向きに研究に没頭できるようになったと言う。女性研究者の一番のモデルが傍にいてくれることで得られる安心感は何ものにも替え難い。2人は4年ほどの付き合いとなるが、姉妹のように仲良く話す様子はとても印象的だった。研究者として、女性として、深い信頼で結ばれた師弟が新たな研究成果を生み出し、活躍する日は近い。
「純粋にやっていて楽しい。それが今の研究の魅力ですね」と話すのは、博士後期課程3年・永井裕介さんだ。魅力的な研究テーマ・環境を求めて、いくつもの大学院を検討した結果、奈良先端科学技術大学院大学にたどり着いた。現在は、伊東教授のもとで細胞内のシグナル伝達の仲介分子『Gタンパク質』の調節メカニズムを研究している。
「我々の身体が、どうやって維持され、恒常性が保たれているのかを理解したい」と語るのは、奈良先端科学技術大学院の伊東広教授。学内制度の構築にも熱心に取り組む先生は、「この大学の研究・教育環境は非常に恵まれている」と語る。