Category:incu-be*03号掲載記事|Update:2008.11.10
「ドクターコースに入ってから、自分で研究しているという実感が持てるようになりました。毎日がどんどん楽しくなっています。進学して良かった」。弾ける笑顔の神谷さんには、今、自信が宿り始めている。
学部3年生の時、研究室で初めて行ったPCRの実験を神谷さんは今でも鮮明に覚えているという。振り返ってみれば、「試薬を混ぜて機械にセットした」だけのことだったが、きれいな増幅断片を眼にした時は、飛び上りそうになるほどうれしかった。そこから研究職として将来もずっと研究に携わっていきたいという思いが神谷さんの中で強くなり、大学院進学を真剣に考え始めた。研究室の先輩に相談したところ、勧められたのが奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)だ。当時在籍していた近畿大学農学部と至近距離にあるにも関わらず、神谷さんがその名を耳にしたのはこの時が最初だった。「早速調べてみたところ、いろいろな大学から学生が集まり、それまでの研究分野と異なる分野を希望しても受け入れてくれることがとても魅力的に感じました」。近畿大学での研究室の配属が決まり、研究を実際に行っていくにつれて、神谷さんは自分の興味がより分子生物学に向かっていることに気付いた。「しかし農学部の授業では分子生物学をほとんどやっていなかったので、大学院で分野を変えようと思っても専門科目の入試が通らないのではないか」。不安を抱えていた神谷さんにとって、科学英語と面接が中心のNAISTの入試は挑戦への後押しとなった。「NAIST以外は難しいのではないかと思っていました。それに、細分化された研究分野において自分が何をやりたいかを絞り込めていなかったので他の大学院は決められないと思いましたね」。
学部での研究内容や、NAISTに入ってどんなことがやりたいのかを問われた入学試験面接。その結果は不合格だった。「学部の時は研究テーマを教授からもらって、よく考えることもなく、言われたままにやっていたんです。だから、面接できちんと論理立てて研究の意味を話すことができなかったんです」。不合格の知らせを受けて、神谷さんは深く落ち込み、他の大学院受験も考えた。だが、他と比較したことで「NAISTが良い」という思いはますます強くなった。そして、10月に2回目の入試を受ける。けれども、うまく質問に答えることができず、面接官の教授から「ここに来てもしんどいよ」と言われてしまう。「1回目だったら、何も言えなかったと思いますが、この時は間髪を入れずに『大丈夫です。専門分野は違うけれど、中に入ってから吸収していくから大丈夫です』という言葉が出てきました。NAISTに行きたいという気持ちだけは伝えることができました」。半ば諦めかけていたところに届いた合格通知に驚いた。
博士課程入学後も決して順調だとはいえない。博士号取得を目標とした5年一貫コースに進むことを入試合格の時から悩み続け、進学後の5月に決断するも選抜に漏れた。「もちろん落ち込みます。けれども、どこがダメだったのか、原因を探り、次はそれを直そうというところまで考えたら後はもうあまりくよくよ考えないです。打たれ強い性格なのだと思います」。理由と対策を自分の中で明確にしたら、気持ちを切り替えて動き出せると神谷さんは自己分析する。神谷さんは、現在、ノックアウトマウスや培養細胞を用いて副甲状腺の発生について研究を進めている。「修士のころは、実験がうまくいかなくても先生とディスカッションする能力さえありませんでした。『これはうまくいかない』と思っていても、なぜそう思うのかをうまく伝えられず周囲の人たちに単に『頑張れ』と言われてしまうこともありました」。神谷さんの指導を担当する片岡准教授は、何でも相談に乗ってくれる。配属直後はそこに甘えて、自分で考えることなく片岡准教授をはじめ周囲の人に聞いていた。結果が出ず、テーマが2転3転する中で、神谷さんに変化が表れた。「このままでは、研究者として未熟なままだと思い、自分で考えて、結果を解釈して、次はどうしようというところまで考えてからディスカッションをするように努力しました」。これを繰り返すことで、自分で研究計画を組み立てられるようになり、結果も出てきた。研究者として歩み始めるために必要な時間と環境は、ひとりひとり異なる。「未熟で稚拙な考えでも根気強く片岡先生が相手にしてくれて、育ててもらえたことが本当に良かった。ドクターコースに進んだことに後悔はないです」。博士論文も進路も、不安要素はたくさんあるが、全ては自分の選んだこと。「うまくいかないことがあっても、よしやってやろうと思うタイプです。原因を考え、解決策を立て、試してみる。理系らしいですよね」。これまでも紆余曲折しながら、結局は自分の思う道を歩んできた。この先もすんなりとはいかないかもしれない。けれども、自分の選択に覚悟を持って、神谷さんは進み続ける。これまでも、これからも、選択肢の幅を広げる努力を続け、その中から最適な選択は自分で見つけたいと願う。
「純粋にやっていて楽しい。それが今の研究の魅力ですね」と話すのは、博士後期課程3年・永井裕介さんだ。魅力的な研究テーマ・環境を求めて、いくつもの大学院を検討した結果、奈良先端科学技術大学院大学にたどり着いた。現在は、伊東教授のもとで細胞内のシグナル伝達の仲介分子『Gタンパク質』の調節メカニズムを研究している。
「我々の身体が、どうやって維持され、恒常性が保たれているのかを理解したい」と語るのは、奈良先端科学技術大学院の伊東広教授。学内制度の構築にも熱心に取り組む先生は、「この大学の研究・教育環境は非常に恵まれている」と語る。

アフリカの乾燥地帯、日差しが厳しい中で育つ野生種スイカ。この特殊な環境に存在する植物の研究に別々の視点から魅力を感じ、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)での研究に行きついた2人の研究者がいる。分化・形態形成学講座助教の宗景ゆりさんと博士後期課程2年の三田智子さんだ。